《without records》の展示終了が寂しい理由

2016.05.19

東京都現代美術館のどんつきに、中の様子がすっかり覗き込めてしまう常設展示室がある。この展示室の入口の空間はアトリウムと呼ばれ、自然光と潔い天井高を誇り、20周年を迎えた美術館の開館以来、インパクトのある作品が展示されてきた。そして、現在、大友良英+青山泰知+伊藤隆之《without records – mot ver. 2015》が展示されている。この作品展示が、いよいよ来週5月29日で終了してしまう。

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大友良英+青山泰知+伊藤隆之《without records – mot ver. 2015》東京都現代美術館での展示 著者撮影

アトリウムで日の光を浴びて、心地よく成長した植物かのように、自由で自在に生き生きと古めかしい音楽装置がシャキッと支柱の上でポーズをとっている。その装置は、レコードプレイヤーなのだが、without records(タイトルの通りレコードが無い状態)で、不思議な音をまるで気まぐれに出し始める。自在な方向で設置されたプレーヤーから発生される音は、一つ一つが際立つ。音に気がつき、どこのプレーヤーからの音なのかを探し始めると、また一方からの不思議な音に振り返り、どこだろうと探し始めると、今度は一斉に音が発生していて、耳も目も、そして自分自身もすっかり作品空間に巻き込まれている。視覚的な空間も然る事ながら、アトリウムを満たす空気を振動させ、聴覚的にも空間が存分に生かされることで成立する、まさしく空間全体を使った贅沢なインスタレーションだ。

と、こんな知ったようなテキストから始めてしまって、すみません。SIAF2017バンドメンバーの雑用係、細川です。私は、前回2014年の芸術祭から関わらせていただいた流れで、バンドメンバーに加えていただくことになりました。バンドメンバーといっても、芸術祭の企画を担うチームのことなのですが、華やかな肩書きのバンドメンバーに囲まれ、必死で実務作業に邁進しております。どうぞ、宜しくお願いします。

さて私は、東京生まれの東京育ちです。2月に開催された記者会見(動画リンク)とパブリックミーティング(ブログリンク)で、大友ゲストディレクターから、秘密にしていたはずの「すし屋の娘」という過去をすっかり暴露されてしまったので、この機会にもう少し紹介させていただきます。私の実家は、江東区三好町のすし屋で、ものごごろつく前から祭り装束を着せられ、いつしか神輿の担ぎ方が体に染み込んでいるような、どっぷり下町文化の中で育ちました。自分が男だったら、今頃、このすし屋の4代目を継いでいたかもしれないのですが、今は美術にまつわる企画や事務局の仕事をしています。そのきっかけを作ったのは、その店の目の前にオープンした、冒頭の東京都現代美術館でした。

東京都現代美術館のオープン時、私は高校生で、この美術館の開館記念展「日本の現代美術1989-1995」で目の当たりにした作品が、自分が知っている美術作品(この頃は、イコール絵画だと思っていました)とはあまりにかけ離れていたことから、現代美術に強い関心を持ちます。学芸員という職業になれれば、このよく分からない作品がすんなり分かるはずだという、大きな勘違いをして、学芸員を目指すべく大学で芸術学を専攻することにしました。この頃から、自分はこの美術館で監視のアルバイトをしたり、学芸員の実習をしたりと足繁く出入りするようになるのですが、現在でもこの美術館で続けている活動があります。それが、2000 年から始めたギャラリートークのボランティアです。かれこれもう16年も経つわけですが。毎日午後2時からこの常設展示室で、約1時間実施されるボランティアによるギャラリートークを、私も月一度ぐらいの頻度で担当してきました。そのため、この常設展示室には異常な親しみを持ちながら、アトリウムで数々の作品を見てきました。そして、今年度の新収蔵作品としてお目見えした《without records – mot ver. 2015》は、その中でも、アトリウムの空間を存分に活用した威風堂々とした佇まいで、鑑賞者を展示室に誘い込んでいます。個人的には、アーティストの一人が大友ゲストディレクターですので、自然と作品に対する知識も蓄積され、思わずギャラリートークの参加者と会話を弾ませながらこの作品を、4回紹介しました。ですが、この展示も5月29日まで。加えて、この日を境にこの美術館自体が改修工事のための長期の休館に入ってしまいます。この空間自体そのものに暫く接せられない自体、なんとなく寂しいのですが、《without records – mot ver. 2015》の華やかで印象的が、長期休館前の最後のインスタレーションという事実と結びつくと、何だか一層寂しく感じてしまうのでした。

そんなわけで、チャンスがあれば、このアトリウムに是非、足を運んでみてください。最後の常設展には、それ以外にもご存知ウォーホールの《マリリン・モンロー》を筆頭に開館当時からの名物コレクションもお目見えしていますので、お見逃しなく。最後に、沢山のwithout recordsのプレーヤーは、20名以上もの一般の方が参加して一台一台ワークショップにより制作されたもので構成されているのですが、大友さん作のターンテーブルを見つけることが出来ました。こっそり写真をアップしますので、会場で、探してみてください。

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MOTコレクション「コレクション・オンゴーイング」
会場:東京都現代美術館 (東京都江東区三好4-1-1)
会期:2016年3月5日(土)-5月29日(日)月曜休館
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/mot-collection-ongoing.html

細川 麻沙美
細川 麻沙美
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