さっぽろコレクティブ・オーケストラ 第4回ワークショップ 12月2日レポート

2017.01.24

さっぽろコレクティブ・オーケストラ プログラムディレクター 有馬恵子さんから、2016年12月2日に行われたワークショップのレポートを頂きましたのでご紹介します。


吉増剛造『螺旋歌』より
雨降れ葉揺れ(ジョルボレれバタノレれ)/濁りの山よ

不可能だが、その、不可能の濁りのままに語りだし語りおえたい気がする。
濁りのままに、淀みをそのままに、あるいは口籠(くりごも)りをそのままに。

縁や島石を小舟が接いでいくように、鳥達が啄(ついば)んだ木の実を嘴(くちばし)から落とさぬように、そんなふうに言葉を綴り文脈を折っていることに時折夢のなかで―恥ずかしい―と呟いている。そうして夢中のその粒々をなんとかあたらしい口籠りにしたいと考えて小文を書きはじめていた。

きっと不可能なのだろうが、その不可能を不可能の濁りのままにするのは、しかし。しかし、静かに不可能がふとその濁りを忘れることも、それがあるのだと思う。わたしはいま旋回する生と死の夢を語ろうとしている。
異なった彩りの時間を感じとりつつ、小舟が、あるいは啄んだ木の実を嘴から落とさぬように鳥達が、―親切な飛翔を比類のない旋回を。濁りは経験的なもの、感覚の染や跡、記憶の翳りを指し示しそしてその濁りの奥で生命現象はそのさらに奥のなにかに出逢うことを切望している。

切望の尖端の細い岬で不可能が不可避の濁りの不可視の傷として浮かんでいる。
傷だ。突出した傷だけがあるいはそれだけが確かに存在している。開こうとする不可視の傷にそっと濁りを近づける、未知の濁りを世界といってもよい。
小石を探している、傷の奥に赴(おもむ)こうとして躓き(つまづき)の小石を探している、それに出逢うことを切望しているわたしもまた貌(かお)のない小石なのだ。

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吉増剛造さん

吉増剛造さんとのワークショップ
制作ノート

2016年12月2日、札幌市の資生館小学校体育館にて「さっぽろコレクティブ・オーケストラ」のためのワークショップをおこないました。ゲストは吉増剛造さんと大友良英さん、撮影は石川直樹さんです。
冒頭に紹介した文章は、吉増剛造さんの詩集『螺旋歌(らせんか)』の一部を書き写したものです(原題は『インドの時間』初出は『省察』1号1989. 3)。
原文には漢字へのルビなどはありませんが、小・中・高校生にも読んでもらうために、読むのが難しいと思われた漢字にひらがなをふりました。
なぜ詩を?と思われたかもしれませんが、参加したみなさんにこの詩をぜひ読んでもらいたいと思いました。少しむずかしいと思いますけど、ゆっくりでよいのでぜひ読んでみてください。吉増さんから贈られたこの一編の詩の中には、これから音楽をつくる上での大切なヒントがかくされているように思うのです。
今回のアイデアはすべて吉増さんが考案されました。まず目隠しをして、片手にポラロイドカメラを手にし、片手には貝殻、OHPフィルムなどを持ち、見えない状態で写真を撮ります。
そして写真を紙に貼って、そこに「自分が書ける一番ちいさな字」で、ことばを書きました。

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まこ 作
5
みゅう 作
6
すみれ 作
7
りんちゃん 作
ちはる 作
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まお 作

ここからは大友さんが引き継ぎました。みんな目隠しをした状態です。大友さんは普段はジェスチャーで指揮をしますが、ここでは目隠しをしていますので、ジェスチャーは伝わりません。そしてことばによる「指揮」がはじまりました。「海にいるよ」「おおきな波がきたよ」「嵐だよ」大友さんのことばにより、演奏者の音がさまざまに変化します。結果的に五感から「視る」ことを取り除くことで、「聴く」ことに集中していたように思います。海の音、風の音...

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この画像は動画からクリッピングしました

濁りは濁りのままに、混乱は混乱のままに。吉増さんとのワークショップでは「写真」「文字」「紙」「目隠し」「演奏」などさまざまな要素がちりばめられていました。「その濁りの奥で生命現象はそのさらに奥のなにかに出逢うことを切望している。」そのことばのとおり、視覚や聴覚に刺激を受けて、その更に奥のなにかに出逢い、未知の音楽の扉をみなで叩いたのではないかと思っています。

このワークショップでおきたこと、確かな手応えとしてあるのは、そこで生み出された音は素晴らしいものだったということです。
難易度の高いワークショップでしたが、小学生から高校生まで、よくみんな頑張ってくれたと思います。

「きっと不可能なのだろうが、その不可能を不可能の濁りのままにするのは、しかし。しかし、静かに不可能がふとその濁りを忘れることも、それがあるのだと思う。」

未知の音楽へ、力を引き出してくださった吉増剛造さん、本当にありがとうございました。

画像はすべて石川直樹さんの撮影です。

事務局
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